$四聖獣$
Act1
報せが入ったとき、さほど驚きはなかった。 何故か。
危険の印象が大きな障害をくぐるほど、手品師、エンターテイナーは輝くからである。
さしも、リングランドの夜天に踊る劇中の主人公は、それを心得ている――そんな確信に等しい信頼があった。
ぞんざいに投げ出された黄色いカード。
携帯のモニターに映っているキャラクターを眺めて、愉快が高まる。
面白き。愉快かつ、実に満足を刺激する実際に――舌鼓。
刈り上げられた頭髪を撫で上げ、携帯の画面を舐める。
渦巻く知識に踊る気分が高揚。ああ、楽しい――――。
注目することは何気ないことから始まる。
当然、網に漏れはあるが、うまい具合に引っかかっていたその印象を引き上げると、後の不自然に噛み合った。
「なんだ、なんだ? なんで潜った?」
下水道に入り、出ること。それがとても興味深い。
日々溢れる、いつもと異なるファクター。赤いメッシュは砂漠のピアスを見つけた。
「おい、おい! 出てきたよ、何か大事そうに包んでよ。あいつは持ってないってのに」
この異常な日に貸しきられたホテル。従業員すら追い出したらしい。
ああ、不思議、不思議……。
床に並べられている開いたそいつらの内、1つをもう片方に持つ。
ガラスに映った夜景には、簡易な椅子に座った自分が重なっている。
床には、無数の色とりどりな携帯電話―――。
『やぁ、“おはよう”』
$四聖獣$
『ったく、解ったよ。言えばいいんだろ』
「困った女がいてね、どうしたものかと
『困ったのは、お前なのだろ?
< < < << 奇転の会 >> > > >
キテンノカイ
BLOCK4:ディーロ/マリーポ
いや、私だけじゃない。とにかく何とかしたいんだよ」
これから“朝食”、そして日課だ。数時間待て』
『やっと、しゃべったな』
Act1
◇赤いメッシュの通話―1
「そんな……確かに急な話だがね。朝食より大事なんだよ」
『 』
「君の朝食は言ってみれば、普通の人の“ディナー”だろ?」
『 』
「ああ、そうか、すまないね。悪かったよ」
『 』
「……それが、その女、酷い奴でね」
『 』
「“彼の顔”を指差して、笑ったんだよ……」
『――――』
「そうか、ありがとう。私は3番の家にいるよ」
『 』
――――通話が終わる。
「クク・・・ウふォッグフッ……! 会ったこともねぇーっつーの! バカみてぇっ!!!」
◇赤いメッシュの通話―2
『――――』
「そうか。しかし、あまり鬱陶しく泣かないでくれたまえ」
『 』
「お前は安全だ。何、嘘をつく必要など無い。そのままを伝えていろ」
『 』
「これからはその画面、それだけをくれればいい」
『 』
「そうだ。では、“ご苦労様”」
――――通話が終わる。
「処理しなきゃいけないゴミが、一個増えた……か」
欠伸をしながら次の相手に電話をかける。
携帯電話が並んだ床。
気楽な“七三分けの男”の背後に、影が1つ聳えた―――。
$四聖獣$
Act2
荒廃したレオディル。そこで彼は捜索を続けている。だが、何せ倒壊した家屋の数が数である。通りにいたということは解るが、それだけではヒントが少ない……。
リングランド中からかき集められた救急隊。それでもあまりに足りず。軍も出ているが、それでもまだまだ少なすぎる。
海底に沈んだ橋の周囲。海面にガソリンが漏れ出し、海峡は黒ずんでいる。
陸地にないため、生存者の救出は難航した。事故後の溺死者、衰弱死者は200を超え、現在も救助は続いている。
しかし、こう言ってはなんだが――橋はまだ目処が立つ分マシである。
レオディルは目処が立つ、立たないの状況に無く、ひたすらできる範囲でできる事をするしかない。
古い煉瓦家屋はある程度どうにもならないが、コンクリートの建造物は耐震構造を備えていた。だが、その「耐震構造」はあくまで揺れを想定しているので、「割れる」「粉砕される」といったことには対応できない。
もっとも、双角の“破壊”はそうした人の工夫も破壊するので、対策も何もない。彼の破壊に対して、人の技術はまったくの無力である。
間接的にではあるが、避難訓練や災害への知恵も今回の破壊には無意味。これは災害ではなく、一方的で瞬発力のある“攻撃”だからである。
……人の作りし栄華の残骸。その上を歩き、瓦礫を懸命にどけて、“双角の男”は“奴”の亡骸を探している。
テレフォンコールの大渋滞をすり抜けて、双角の携帯が震えた。
相手は“嘘が嫌いな”親友……。
「はい。何かありましたか」
『どうも、親友。今君は奴の死を確認しているとこですかね?』
通話相手は静かに言葉を発した。
「ええ、そうです。まだかかるかもしれませんが」
周囲を見渡すと、延々と広がる瓦礫と嘆きの情景。
『申し上げにくいんですが――あなたのその行動、無駄です』
「? ……確認が無ければ彼の死は終われませんよ」
『ええ、ですから。彼の死はまだ“終わっていません”』
親友がハッキリとした口調で言い切る。
双角は意味を察して、両の角を屹立させた。
「生きて――いる。そうですか。どうしても、加減してしまいますね。次は――」
無表情だが、虚空を睨み、角を屹立させたその姿は強烈な“憎しみ”を意味している。それは、異様な景色の中にあって、尚も異様な佇まい。
『どうか落ち着いてください。それ以上は私達の絆も危険なので』
「だが、彼の死は――」
『奴はそちらに引き返しています』
「――!」
『おそらく、なんですがね……。どうやら奴も目を使っているらしいんです――いえ、確証はありませんが、トーマスが泣いていたもので。あくまで私の予想と勘です。
まぁ、どのみち、瓦礫の世界ではあなたもやり難いでしょう。丁度良いので、出迎えてあげてください』
「――――解りました。ご忠告、感謝します」
『いえ、いえ。当然のキョウリョクですよ。とりあえず奴の現在地を教えますね。――しかし、今度はどうしたことか。奴のそばに“女がいません”。 ならば 、どうやって確実を求めます?』
親友の問いに、しばらく黙す。
「仮に――奴が目を用いているのなら……私はあのような悪人から逃げ回りたくはありません」
『どういうことでしょうか?』
「すみませんが、手ごろな位置で、“なるべく高く、壊れてしまっても迷惑が少ないビル”って…………ありますかね―――
/
―――なるほど、充分だ。このまま通話は継続するから、マイク、そのまま奴の位置を伝えてくれ」
未だ落ち着かない方角へと向かう朱雀。表通りにはいつもより車の通りが少ない。こんな日に外食する気分にはならないだろうし、大地震が発生したと思っている人々は余震を恐れて、愛する家族と家で震えていることであろう。
“奴”はすでにレオディルを出た。そして、朱雀の元へと向かっている。
今は得体の知れない危険から逃げる状況ではない。
朱雀は逃亡者から、暗殺者へと立場を変えた。つまり、奴と対等の立場に。
逃亡も得意だが、人を殺すことも彼は得意だ。それこそ“飽きる”ほどに―――。
$四聖獣$
Act3
「相変わらず、早いね」
通話を終えて。
赤いメッシュの七三は振り返らずにその男を迎えた。
背後に立つ高い男は身体を覆うマントから手を出し、管が伸びているマスクを取り外す。
「Breakfastを省いてまで来たからな……」
彫が深い顔にウェーブした長い前髪が掛かっている。
「寝起きはつらいから、私は朝食をいつも省くがね――さて、早速向かおうか」
七三は立ち上がり、赤と朱のお気に入りをポケットに仕舞いこんだ。
「ディーロ、その忌々しい女はどこにいる……?」
横を通りすがり、窓の1つを開く。
吹き入る風がマントと長いブロンドのウェーブを靡かせた。
ここの夜景は相変わらず、美しい――。
「オルブレアのアインツェルホテルだ。怖い人達がいるから、上から行きたいね」
七三は部屋の一角からミルククッキーを取り出し、差し出す。
「言うまでも無い。我(われ)が地など這うか」
言葉の途中、マントの男はミルククッキーを取り上げた。
風圧で、赤いメッシュの髪が揺らぐ。
「ほう、これは美味い」
「早速出かけましょう。一刻も早く、彼の悲しみを拭わねば」
「ハイ」
「・・・なんです?」
七三の男は、差し出された気味の悪いマスクを手にして戸惑った。
「空はな、案外、羽虫が多い。今日は急ぎなのだろう? 顔に当たると痛いぞ」
「・・・それはありがたい配慮ですね――そういえば、あなたこれまでマスクなんてしていませんでした。今まで堪えていたのですか?」
「ああ、すごく辛かった。――だが、我は進歩し、恐怖を克服した!!」
自慢のマスクを被り、両手を広げて自信を漲らせる。その不細工なマスクの左目からは“J”の形に管が伸びており、それの先端は後ろを向いている。
「・・・そうですか。さすがです」
七三の男は髪型を気にしながら、渡された気味の悪いマスクを被った。
「では、行こう。しっかり掴まりたまえ。 我が配下の、夜を駆けて――――“6!”」
言葉と共に、その場からビル外へと吸い寄せられる2人。 /地点は上空23m。
数字を唱えながらの高速飛行に。七三の男は「冷えるな……」とぼやいた―――。
$四聖獣$
Act4
『はい、そのビルです。何故か今日は電力が通っているようですが……』
「廃ビルってわりにはまともなナリだな」
『つい2ヶ月ほど前ですからね。追加情報=解体予定は半年後だそうです』
「ハッ、そいつは都合がいいことで。“奴”は業者かよ」
『情報確認=いいえ、彼はこのビルに関わりがありません』
「……マジレスありがと。じゃ、後は子守りに専念してくれ」
『了解。朱雀様、生きてください』
「・・・応援はありがたいが、それだと人生諭されてる感じだ。要勉強せよ」
『了解。さっそく検索してみます』
マイクに1つ、マナーの知識を教授し、朱色の携帯電話を閉じた。
/
15階のビルは小洒落た構造で、ロビーから見上げると8階ほどの高さに天井が見える。爽快なほどにロビーが広く感じられるのはそのせいであろう。
2ヶ月ぶりにエネルギーを得た建造物。控えめな朱色の照明がロビーの床を照らし上げている。
靴底を鳴らしてロビーの中央に立つ。
“ ボッ…… ”
火を吐くライター。
点けようと、先端を近づける――
< 階段を登れ >
・・・上から、勝手な指示が下りる。
朱雀は広い帽子のツバを押し上げて、声の方向を見た。
見上げたビル内には、各階ごとに手すりが設けられている――つまり、このロビーを各階から見下ろせるということ。
ライターの蓋を閉じ、未遂に終わった煙草をコートの裏に仕舞う。
< 階段を登れ! >
声が、天井の高いロビーに反響して下りてくる。
首を鳴らして、大きく唸りながら欠伸をかく。朱雀は眠たげに瞼を擦った。
< 早く登れっ!! >
声は苛立ち、更に強まって下りてきた。
「・・・Hey、“顔も見知らぬ”声の主さん。 俺があんたの指示を聞く利点はなんだよ?」
無条件で動くような男ではない。がめつい性分のテンガロンハットは声を張り返した。
< ……リングランドを失いたいか? >
声は、無茶苦茶なリスクを投げかけてきた。
「……アン、なんだって? できないことは言わないでくれ」
< ――――・・・ >
言ってはみたものの、まるで返事はない。そして、“そんなことはない”ことも朱雀は知っている。ただ、このまま無抵抗に従いたくなかっただけ。
――そして、大方の位置を推測したかった。およそ5〜7階か。
「…………登ればいいんだろ! 登ればよぉっ!」
脇目に近代の箱を確認して、朱雀はやけくそな様子で怒鳴り上げた。
舌打ちをして、階段へと近づく。
靴底を鳴らして階段を一段、一段と登る。
姿勢を低くして“奴”の姿を確認する声の主は、その双角を屹立させた――――
息を深く吸い込み、その名を溜める......
/
『 ディアブロォォォォォッ!!!!! /
/―――!!!!!???!?!??」
下から響いてきた声は、酷い“意外”を伴っていた。
絶句する。
双角の男――“ディアブロ”の全身が一気に発汗した。
<えらく景気イイじゃねぇか、ああ!? 派手にぶっ壊してくれてよぉ、オイ!!>
「!?!?!」
息が、肺が苦しい。何が起きている? そんなはずはないのに……。
<もしもし、ディアブロさぁん!? 僕が今日、どれほど君を殺したいと思ったか――>
「―――っ!??」
<解かりますか!? なぁっ、オイ! どれほど“殺したい”と思ったかよぉ!!?>
「う、ぅぉぉ……」
怒鳴り声が響き、上ってくる。
<すぐ、そこに行くからよ! 挨拶しようぜ、“別れの挨拶”っっっ!!!!!>
自分の名前、知られるはずが無い自分の名前。
ディアブロは胸のポケットに手を当てて、動悸が治まらない自分を必死に宥めた。
階段を登る靴底の音が響いている。
怖れることはない、怖れることはない――と、自分に言い聞かせる。
「もとより、命は捨てる覚悟だろう? ディアブロ。意思を、覚悟を取り戻せ……!」
<ああ、そうだ!>
怯えを必死に払拭しようと、ディアブロは――――
<ディアブロさぁんっ! 奥さんはお元気ですかぁ!!??>
「――――――――――――――あ゛?????」
他の全てが、どうでもよくなり、その一言だけが頭蓋を駆け巡る。
<ねぇ、本当にリングランド壊せんの? 奥さんも殺っちゃうの、ディアブロさん?>
「――――――そんなわけない」
<答えろよっ、なぁ! あんたの妻を瓦礫に埋められんのかよ、このクソ狂人!!>
/
『 っっっ馬鹿なことを言うんじゃあないっっっ!!!!! 』
―――ビルに響き渡る、絶叫。
ディアブロはとてつもない侮辱に耐えかね、涙を溢れさせた。
「何を、あいつは何を言った? 私が、私が妻をどうすると? ふざっけ、ふざけるな……ふあけるな……ぁぁぁ…ぅぅ…うぁぁぁぁぁっう、うぅぉぉぉぉぉォォ!!!!」
壁を蹴り、頭突きをして、手近の消火器を投げ捨てる。
ディアブロはまるで犬のように泣き喚きながら、癇癪を起こした。
怒りのあまり、屹立した左の角を柱に突き立てる。
“交通事故のような破壊音”が建造物全体を震わせた。
指定の無い、我武者羅な一撃は彼の周囲に亀裂を奔らせ、7階の窓に軒並みひびを生じさせた。
「ああああ、ぁぁぁ……」
額に血を滲ませ、涙と鼻水、涎。それら体液に塗れた顔をポロシャツの袖で拭う。
荒げた息がようやく落ち着いてきた。
……静寂が訪れ、気がつく――おかしいな。音が足りないな、と。
一段、一段。響いていた足音が無い、と。
理由を探して立ち尽くしていたディアブロの視界に入った、光の動き。
近代の箱は1〜15の内、「3」に光を灯している。
そして、「4」、「5」と順にずれていくオレンジの輝き。
「っが!?」
ディアブロは理解し、走った。
灯りが「6」に移る。
そして灯りが「7」に移った時―――
「――――……!」
―――彼の右手中指は、7階への扉に触れていた。
“ 弾ける電流 ”
飛び散る火花と飛散した電流に撃たれ、ディアブロは吹き飛ぶように後ろへと倒れた。
エレベーターの扉からは煙が漏れている。
しばらくすると、何かが落下した音が下層から聞こえてきた。
ディアブロは衝撃が残る半身を引きずるように起こす。
焦げたポロシャツの襟元を正し、立ち上がる。
まだ“終わって”いない。確認して、確実となって、ようやく彼の死は終わる。
エレベーターはもう無いから、階段で降りよう。
やり遂げ、疲弊した表情で振り返る。
――ツバの広いテンガロンハットが特徴的なシルエット。その右手には、青く光るモノ。
「――――」
「随分老けて見えるな。確か32才だろ?」
「――――おお……あああっ」
「そうだ、忘れずに挨拶をしないと――ディアブロさん、“さようなら”」
「! ガァッ!!!」
“ 銃声 ”
同時に、崩れるような衝撃。
バランスを失う体。
吹き飛ばされた、右脳――――
倒れるディアブロ。マグナムは彼の頭部を吹き飛ばし、充分な致命傷を与えた。
銃口の、煙が上っていく……。
朱雀は拳銃を右手で回すと、終わったその男に背を向けた。
――破壊された脳で、考えたわけではないだろう。
元来、“外れ”の力は“ルール”こそ必要とするが、意識して使用するものではない。
――歩き始める前、煙草に火を点けた時に気がついた。
吹き飛んだ脳髄がまだ宙にある最中のこと。
反射か、剥き出された小脳から生じた行動なのか。
失った右頭部。傷口とは言い難いが、“作られた”その損傷に彼は触れた。
触れた指は、右手の中指……。
振り向くと、終わったはずの男は右腕を横に伸ばし、柱の寸前に中指を構えている。
おかしい話ではないか。予想していた力なら、こんな事態は有り得ない。つまり、予想よりこの男の力は“結果”の範囲が広いのか。それとも、力の解釈に見落としがあるのか。
割れたガラスから、遮る物が少ない室内に夜の光が斜線に入り込む。
照らし出される、焦げて汚れたポロシャツ――赤黒いロングコート。
「そのまま、銃を捨てろ」
「…………」
朱雀は、軋む左手で煙草を口から外した。
「お前の驚異が解からない。脅しが成立していないぜ。撃った方が早そうだ」
青い銃口の狙いを定める。
「――私がこれまで何を行ったか、おおよその考えはあるのだろう?」
「確かに、随分と派手な手品ができるみたいだな……」
「手品ではない。私も完全には解かっていないが……。ただ、この“右手中指”が触れた物を“破壊”できることは理解している。
――いや、違うな。今、理解した。そうか、私が破壊できるのは“人の作った触れられる結果”、……か」
ディアブロは自分の右手を眺めて、自己解決の結果を伝えた。
「つっても、今までビルの崩壊から2回ほど生き延びている俺だが?」
「今度は“私自身が逃げる為の時間”を必要としない。確実に、早急に終わらせる」
「……あいよ」
朱雀はがっくりと肩を落として、デザートイーグルを床に放った。
「――そうだな、撃てばこの中指はビルを崩壊させた」
「なぁ、あんたも死ぬんだろ? いいのか、それで」
「何か問題が?」
「・・・・・・ねぇよ」
不機嫌に首を振る。一番面倒な精神状態が相手らしい。
「手を上げろ」
「ハイハイ――って、いやいや。どうせお互い死ぬんだろ。さっさとやれよ」
「まだだな。お前が何故狙われたのか、どうして死ぬのか。しっかりと罪を理解して逝け」
「イヤ、悪かったヨぉ。あんたの友達を殺ったのは謝るからさぁ」
「……理解していたか。そうだ、お前は――」
「殺せって“指示されて”、さ。しかたなく――」
「!?」
明らかに、ディアブロの血相が変わる。 なんということだろう。
「指示された……? ならば、まだ“終わらない”!」
「あ? 終わるって何が」
「言え! 指示をしたのは誰だ! 何所にいる!!?」
「oi! 右手、右手気をつけて!」
怒りに震え、口調を強めるディアブロ。
朱雀は揺れる右手への注意を促す。
「言え!!!」
「いや、それはちょっと――」
「早くしろっっっ!!!!!」
「ちょ、ちょっと待てってば。言っても言わなくても死ぬんなら俺が言うわけ――」
「“終わらせて”やろうかっっ!!??」
・・・会話にならない。猛る怪物とのコミュニケーションなど、できるわけはない。と、朱雀は落胆した表情を見せ、後頭部を掻いた。
「――ったく、解ったよ。言えばいいんだろ、畜生め」
掻いていた右手を下ろす。
諦めた様子の朱雀を見て、ディアブロは言葉を期待した。
――――が、右腕の鋭い異変。 視線を角へ。
投げられた2本のうち、1つは狙い通り右腕の手首に刺さった。
もう1本は……この暗がりなので大した期待をしていなかったのだが……ラッキーなナイフは、怪物の“右角”を見事に切断していた。
驚愕したが、同時に戦慄もした。
指の切断面から血が噴出す前に、視線を戻す。
その猛禽の眼は、貫くように鋭く、冷酷に自分を見ている。
持ち上がった口の端。
右手には『黒鉄の砂漠鷲』がマグナムの翼を広げている。
飛び出した50口径の弾丸。それは左脇と、その付近を抉り飛ばした。
「うごっ……! がんっ……!」
まともな声も上がらない衝撃。
傷を破壊しようにも右角はなく、傷に亀裂を与えようにも、左腕は上がらない。
「――やっぱり、言えないね。あの人は戦争よりおっかないからよ」
手元で黒色のデザートイーグルを回し、グリップを掴む。
再び銃口を定めて、広い帽子のツバを下ろす。
「左もなんかありそうだから、ついでにぶっ壊しといたぜ。今日、あんたが壊したモノに比べたら――可愛いもんだろ?」
帽子の影にもはっきりと解かる、その眼光。
視線が刺さるディアブロは恐怖もするのだが…………だが?
(ぁ……ああ??)
破れた胸ポケット。それを押さえて困惑する。
(いや、そんなわけは、ない……)
だが、どれほど否定しても、彼は鬱陶しいと思っていた。
(なんだ? 私は、私は……)
他に有るはずかない。彼が、いつも心に描き、思うはずの存在。
(違うっ! だって、だって……私はあの時から、今まで、片時も――)
講義を終えた自分が、勇気を出して話しかけたあの日、あの瞬間から……いつまで?
“いつ”から、彼女を守るべき自分は――――。
「あ、ああ!? 何を……私は、“何を”愛した!!??」
解からない。ただ、涙が溢れる。
“好きだった”んじゃない。今でも、いつだって……僕は、僕は君のことを――― /
/ ―――銃声+銃声。
1の弾丸――脳髄が右の顔面ごと弾ける。衝撃で、左の皮膚が裂けた。
2の弾丸――左腕が肘から吹き飛ばされ、宙を舞う。
破壊された脳では何も考えることはない。
角は、左右共に失われている。
思考はない――しかし、心は……心はどこにあるのであろうか?
/
今日は、一緒に何を食べようか。
君の好きな南瓜のスープは決まりだな。他に、何がいい?
まかせてくれよ。君が望むなら、僕は最高に美味しいディナーを用意するからさ。
そうだ、明日は晴れるらしい。ちょっと散歩にでも行かないかい?
キャンパスにいこうよ。あそこは自然が豊かだし、素敵な思い出も詰まっているからね。
ああ、しかし――君は変わらないな。
本当さ。いつだって愛おしくて、愛らしい。
だから、こうして君を抱きしめるよ。
―――僕もさ。僕も、大好きだよ 。
いつまでも、いつまでも。この生が有る限り、僕は………
僕は、君を守るはずだったのに――――。
/
涙声。
“脳髄が崩壊されたディアブロ”は、最後の瞬間まで最愛の妻の姿を見ていた。
“脳髄が崩壊されたディアブロ”は最後の瞬間まで、愛せなかった自分が解らなかった。
怪物の心は最後まで―――大切な妻の名を、叫んでいた……。
/
/
/
吹き飛び、倒れたポロシャツの男。
朱雀はその元に寄り、今度こそ、と彼の終わりを確認した。
大きく煙を吸い込むと、半分が燃え尽きて、折れた灰が床に落ちた。
「これで“責任”は果たした……つっても、あいつはキレるのかね」
……答えが出ない。
これだからアイツは苦手だ。
ツバの広いテンガロンハットにロングコートのシルエット。
彼はニコチンの煙を残しながら、階段の暗がりへと紛れていった――――――。
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$四聖獣$
Act5
階は屋上に近すぎず、かといって低すぎず。
輪の形に部屋が配置されたその階層。
廊下の代わりに、円形の空間が広がっている。
敷かれた絨毯はわりかし高級なもので、若い護衛はその部屋の前で足元をふかふかさせていた。
――扉が開く。
何か、と若い護衛が反応した。
その一室から出てきたのはマスクを被った2人。どちらも怪しいが、特に黒いマントに包まれた男は、あまりに目立つ。
自分達13人と護衛対象の女性しかいないはずのホテルに、この異様……。
「誰だっ! 動くな!」
アサルトライフルの銃口を向け、忠告する。
気味の悪いマスクを被っている男は笑顔を作った(マスクで解らないが)。
「怪しいものでは御座いませんよ」
気味の悪いマスクが返答したが、それは無理がある。
「怪しいんだよっ!! なんだ、その気色悪いマスクは!??」
若い護衛が怒り心頭に彼のマスクを指差した。
「……」
背の高い男は首を傾けてマントの下の指を鳴らす。
「――失礼。マナーがなっていませんでしたね」
そう言って気味の悪いマスクを外すと、お世辞にも恰好が良いとは言い難い、斬新な髪型――“左側だけ刈り上げられている七三分けに、赤いメッシュ”――が露わになった。
マスクを取り、尚も怪しい男の髪型を確認して。若い護衛は顔色を変え、無線を取り出す。
「……良い物持ってるな」
マントの男は若い護衛が持っていた無線を唸りながら眺める。だが、すぐにどうでもよくなってそれを放り投げた。
突然の事に、あまり思考は追いついていないが。
兵士の直感が、銃口をすぐ横に立つ男に向けた。
「う〜む、これも良いな」
向けていた銃口の逆。背後に立つマントの男は初めて間近にするアサルトライフルに興味があるらしい。だが、すぐに飽きたのでそれを放り投げた。
「オ!!?」
若い護衛が、取り出した拳銃を振り向き様に構える。
しかし、そこにはその時、誰もいなかった。
「いない!?」と彼が声にも出せずに叫んだ時。高い影は再び彼の元に戻り、そして拳銃を取り上げて
「んん? これは……良くないな」
と、くだらなそうにそれを放り投げた。
意味は解からないが、兵士の経験がマーシャルアーツをお見舞いしろと指示を出す。
「失礼。1つだけ言っておきたいのですが――」
動きかけた体が、真横で発せられた丁寧で、場にそぐわない言葉に硬直する。
「私は“嘘つきが嫌い”なんですよ」
「・・・へぇ?」
若い護衛はあまりにもどうでもいい自己紹介に呆け、混雑する思考は絡まったまま硬直した。
「私達は“彼女”の友人でね。今日はディナーの約束をしていたので、迎えにきたんですよ。本当、ただ、それだけの者です」
「! やはり目的は――」
図々しい嘘に若い護衛は言葉を返そうとしたが、指示を思い出して、喉の奥に引っ込めた。
「それで、彼女はどこにいます?」
「――」
若い護衛の額に汗が滲む。
「答えてほしいんですが……当てましょうか?」
「!!」
若い護衛は自分の背にある扉を気にして、「やるしかない」と、2人を如何に手際良く葬るか考えた。
「あの部屋……ですね?」
確信を伴った言葉。七三の男が自信に漲った指で“対岸の部屋”を示す―――。
「・・・・・・」
あまりに見当違い。若い護衛の体は意外すぎる言葉に動きを止めた。
「違いますか? ……ならば」
「!」
「その部屋、ですね?」
エレベーターの隣――そこは3部屋も離れている。
若い護衛は「いや、何で解らないの?」と、小馬鹿にした疑問を浮かべつつ、七三の男を呆れた視線で眺めた。
「違いますか……ふ〜む」
「・・・」
「1つ1つ、ノックしてみたらどうだ?」
「……(苦笑)」
「――ある意味ナイスな提案ですね。しかし、返事をしてくれるかどうか」
「返事くらいするだろ、それがマナーだ」
「……www」
「どうでしょうか? ところで、“この部屋”に彼女はいるんですよ」
「バ!?―――!!!!!!」
自分の後ろを突然指差され、鼓動も忘れるほどに驚く若い護衛。
七三の男は、なんの意味も無く、形容しがたい表情を浮かべた。
驚きに疑問が幾重にも重なり、先程停止した思考が更に絡まる。
「なんだ、そこにいるのか。よく解ったな」
「いや、あくまで予想でして……。それで、どうでしょう? ここに“彼女はいますか”?」
自信があるのかないのか。七三の男が不安気に尋ねてきた。
「こ、ここに女はいない!―――――――っぅごん???」
違和感を覚え、胸を押さえる若い護衛。
顔色を失って絨毯に伏せた彼は1、2秒程もがいた後、その命を終えた。
動かなくなった若い護衛を跨いで、七三の男は残念そうにとびっきりの笑顔を浮かべる。
「あらら……あなたは“嘘つき”でしたか。ならば仕方ありませんね」
遺体に一言伝える七三の男。マントの男は遺体の横を通り、七三の背後に立つ。
頼んでいないルームサービス。 部屋のドアノブを回した―――。
/
―――部屋のドアノブが回された。
扉が開き、「「失礼します」」と丁寧に入室する2人。
「! ダ、誰!?」
カレンはベッドから半身を起こし、その姿を確認する。
左側が刈り上げられた七三分けに、赤いメッシュの男。
黒いマントに長身を包み、不細工なマスクを被っている男。
特にカレンは、七三の男の姿を見て、恐怖した。
彼が皆に伝えたからである。
その男と遭遇した場合、“会話をするんじゃない。いや言葉も発するな”――と。
カレンは下水道での朱雀の言葉を思い出してその指示を了解した。
そして今、朱雀の指示を思い出して口を強く閉じる。
「コンバンワ、我々は怪しい者では御座いません。どうか、警戒なさらないでください」
危うく「はい――って、無理言わないで!」と言葉が出そうになるが、堪える。
「あなたと少しお話をしたいだけですので。……椅子に座ってもよろしいですかね?」
カレンは手近にあるライトスタンドを掴み、振り上げて威嚇――/
「 “32” 」
/――しようとしたのだが。それは今、こだわりのある目利きに品評されている。
「それほど良くはないな……」
マントの男は手にしたそれを後ろに放り投げた。
隣に立つ男は、マントの異様な風貌もそうだが、何より高い天井に近い程の全体像がたまらない威圧感を湛えている。
呆けるカレンはメガネのズレも直さず、口を尖らせた。
「何分、腰が悪くってね。長い間立つのがつらいんですよ。年を積むのはそろそろ避けたいものですねぇ……」
七三の男は椅子に腰掛け、手を組んで背もたれに身を任せた。
「!――?」
隣の男の明らかな威圧感もあるが、椅子に座る男の得体の知れない恐怖もある。
カレンは込み上げ、流れ出しそうな感情を抑えた。
「素敵な部屋ですね。一般の部屋ではなさそうだ――ついでに、1つ言っておきます。私はね、“嘘つきが嫌い”なんですよ……」
お昼過ぎののんびりした雰囲気のTVで、景色や住宅を優しく評価するタレントのように。七三の男は穏やかな口調で話す。
「そっだらこと、どーでもよか!」と言葉が出そうになるが、止める。
法則も過程も解らなければ、結果も解らない。この男が“できること”は全てが不明。朱雀の忠告ですら少しでも答えに近い前進に過ぎない。ただ、受け取り方は彼の意図と違ってしまったが……。
「なぁ、やはり面倒だ。我が“終わらせ”る」
じれったいことが苦手なマントの男は、細長くて良くしなる硬めの物を取り出した。
「――!!?」
「ダメですよ、あなたがヤってしまっては“疑問”が残らない。むしろ手がかりを与えてしまって、彼は“進んだ”気になってしまうでしょう?」
「???」
「――解らんが、お前と言い争うのはもっと面倒だから、我は黙ろう」
「そう、それで良い。――ああ、ほら、そんなモノ出すから彼女は怯えてしまっている」
「……」
「大丈夫です、我々があなたに危害を加えることはありませんから。安心してください、カレン=ミリタナさん27才AB型」
「!?」
名前を知られている、年齢や血液型までも……。いや、でも、元から得体の知れない連中である。それくらい調べられてもおかしくは―――
『“67っ!!!”』
叫ばれた数字と共に、マントの男は部屋から姿を消した。
移動の最中に掴み、投げ飛ばしたモノが円形の絨毯を転がる。
突然の変化に、呆然と開いた扉を眺めるカレン。
七三の男は穏やかに椅子から立ち、静かにその扉を閉めた。刈り上げられた髪を撫で、落ち着いた挙動で彼女のベッドへと歩み寄る……。
/
転がり、部屋から突き放された。
彼が顔を上げると、先程立っていた部屋の入り口は閉じられている。
「んん? ただの軍人モドキしかいないと思ったが……」
投げ飛ばされた青年が立ち上がる。
独特な髪飾りが、青い頭髪に映えて揺れた。
「ゲームの画面でしか見たことが無い――そして、その姿に何度憧れたか??」
己を包む黒い布から出した両腕を広げ、宙に立つ不細工な仮面の男は身を震わせた。
照明が煌と照らす空間の中央。
藍色の袖が舞い、青の前髪が騒ぐ。
「素晴らしぃっ! SAMURAI―BLUE! 君は“良い物”であるっ!!!」
腰に灯した黒の鞘から、信念の刃を振り抜く。
跳躍する。距離はあるが、青い侍には一跳びの距離。
空を翔る“青龍”の刃は下段に構えられ、今に、振るわれる。
「今日は朝食を抜いて大正解だったな。素晴らしいランチだ……素晴らしい“5!”」
姿を見失う――それが、不細工な仮面が宙にいる自分のさらに上を過ぎ去ったのは見えた。そして、通り過ぎ様に良くしなる細長い棒のようなものが自分を打ちぬく瞬間も見えた。
地に叩き落された青龍は即座に立ち上がり、その方向を見据える。
視線の先には、宙に浮き、良くしなる硬めの細長い物を十字に振る姿。急な移動の余韻、黒いマントが翻っている。
「我は君を喰らおう……だが、その前に1つ注文する」
「――品を作る時間も、その気もない」
「断ることは許さない――“68!”」
回避しようにも速く、それだけならどうにかなるのだが、その上長いのが厄介。
普段は強引に巻いて仕舞われていた2m程の“硬い鞭”は、いきなり振るう分には相応な長いモーションが必要。だが、ただ通り過ぎ様に“当てるだけ”ならその隙は無い。
身の丈に迫る長さの鞭に、体操のリボンがごとく演じさせる黒いマント。
「注文は、そうっ、ミステリアス!!」
「……解からないんだが」
鞘で逸らしたが、それでも先端が額を打ち、血が垂れている。
朦朧とした意識を無理やりに振り払い、見上げた。
「我は観たい! サムライの、必殺技! 美しいエフェクトの、必殺技っ!!」
「えふぇくと? ……俺はゲームじゃない。だから、そんなものは出な/
/ノォォぉーっ!!“25!”」
横っ飛び。掠めた鞭の先端が着物の胸元を横に裂く。
「ミステリアスに。ビューティフルに、アンビリーバブルにっ――ハリアップ、“7!!”」
着地後に無理に跳んだため、不十分。鞭は袴の太ももを打ち去った。
「――!――っ」
「ランチをっ! 素敵なランチにシェフっ! 注文の品を早くっっっ!!」
天井を拳で叩いて急かす。 早口に、不細工な仮面の客からクレームが飛び掛かる。
立ち上がり、鞘を腰から取る。
黒ずんだ赤に染まる前髪。
血が伝う瞼を閉じ、侍は“無構え”の姿勢をとった。
「派手でも、必殺でもないが……注文は――賜ろう」
/
「カレンさん、“SEXは好き”ですか?」
「!――!?っ」
ベッドに腰掛けた七三の男は、お世辞にも恰好が良くない髪の刈り上げを撫でた。
「いえ、ああ、誤解なさらずに。決して危害を加えるつもりはありません」
七三の男は穏やかに言葉を続けながら、彼女の胸を掴み、揉む。
「ゐっ!!????!」
「カレンさん、どうなんです。“SEXは好き”ですか? 危害は加えませんから、どうか答えていただけないでしょうか?」
揉み続ける七三の男の手を掴み、引き離す。七三の男のもう1つの手は、ベッドの布団を捲り終えている。
「柔らかく、好みの大きさだ。とても揉み心地が良いですね。ところでカレンさん、“SEXは好き”なんでしょう?」
「や……ぐっ!!!!」
涙を流して、必死に言葉を堪える。彼女の両手は迫る七三の男を突き放そうと、その体と右腕を防ぐが、男の左手はカレンのスカートを外し、下着の割れ目を丁寧に撫で始めた。
「!!? んんんんっ!!!」
「おや、この感じ……体毛は薄いほうですか? ああ、それと、カレンさん。あなたが“好きなSEX”、してもいいですかね。ああ、もちろん、危害は加えません」
下着を強く押し込み、秘部の入り口を弄り始める男の指。
カレンは七三の男の顔を押し上げ、得たく無い快感の原因を掴んだ。
張り飛ばされる―― / ――突然の衝撃がカレンの顔を襲った。
「それとな、てめぇの好きな“朱雀”とかいう下種男!! あいつ、死んだぜ? ぐちっと潰れてよぉ!」
張り手に驚き、口を震わせているカレンはそれ以上の驚きに七三の男を直視した。
七三の男は女の服のボタンを外している。
「それで、あなたの……ん……おお、良い……あなたのマンコ、実に臭そうですが“SEXが好き”なあなたのそれに、私のチンポねじ込んでみましょう。気持ち良さそうだね」
乳房を唇で噛み、舐め上げながら話す。
チャックを下げる音を聴かせる七三の男。
「――――!!!??」
「大丈夫ですよ、私のカワイイ精液便所。危害は加えませんから……アア、産まれた俺のガキはてめぇで育てろよ」
「あ、ぐっ――やめてよ……やめてっ!!!」
――――カレンは泣き、“叫んだ”。押さえていた感情が流れて、理性が歪む。
「・・・・やっと、しゃべったな」
七三の男は小声に笑い、眼下で怯える女を愉快そうに眺めた……。
/
黒いマントの男は思わず仮面を外して見惚れた。
渦巻く数値の1つ。今、“63”は他の全てを差し置いて、美しい――。
ゲームの中で闘気をカラフルに発散させている姿とは異なるが、その姿には気迫が満ちている。「何かある」と思わせるフォースが届いている、と不細工な仮面を仕舞いながら感嘆した。
「Nn〜、グゥレィト! 我はこれから、サムライを中心にレベル上げをする!」
「――」
満足気な黒いマントは移動の前から鞭を振り、先端を加速させた。
「青いサムライよ、我は喜ばしいぞ。しかし……」
「――」
乱雑な振りを、体ごと回転させて一定方向に固定し、勢いを継続する。
「君の“必殺技”が我に決まらないこと、それだけが―――――――残念だ“85ッ!/
喰
dragon
刹那に翻る藍の袖に――――
鮮
血
が
散
り
――――牙は銀の軌跡を残す
龍
eat
/
瞼を閉じたまま飛び上がった青い龍。
“黒い残影”に気を取られた得物を銀の牙は捉え、その肉を裂き、骨を断ち切った――。
絶叫を残して目標の座標に停止し、衝撃で身を捩る黒いマント。
再び上がる絶叫と共に、滴る血液と共に。長身の彼は地に落ちた。
相打ちとなり、吹き飛ばされていた青龍だが、負ったダメージの差は顕著。
折れた肋骨が軋むが、今にも臓物が飛び出しそうな得物とは違い、立って歩ける。
のたうつこともできず、呻いている黒いマント。
その姿を背後に映して、青龍は口を開いた。
「そのままじっとしていれば死ぬことはない。……すぐに終わらせて、彼らと共にお前を保護する」
ホテルのすぐ隣には病院。生憎、今日は回されてきた患者で溢れているが、この男は特別枠で治療を受け――生かされることであろう。
「嗚呼嗚呼......違う、違うぞぉ、シェフぅぅぅ。ランチは、我ではないぃ……!」
「……」
呻く男を置いて、歩き始める。
「ああぁ、シェフ。我のオーダーを、今日のラストオーダーを! ……聞いてくれ」
「――?」
「青い侍よ。我は何故、君ヲ食せなかった?」
「――。」
青龍は立ち止まらず、その扉へと向かう。
「ブルぅぅぅぅザムラ゛イぃぃぃぃ……プリーズ、プリーズぅぅぅぅぅ……」
まだ喚く。 あまりにも悲痛な様子なので、しかたなく口を開いた。
「有りし眼は動で対する。動に対し、動で敵わぬなら、静を持って応ずるのみ――」
「おおぉ! ……解からない」
「――無眼の地も、神秘と言えばそうなのか。俺もよく解っていない――あと、食事に必要なのは牙だけではない」
歩みを止めず、腰に鞘を戻して答える。
黒いマントは侍の言葉の意味はともかく、それが「ミステリアスだ」ということに感動し、それに斬られた自分の傷を愛おしく感じている。
部屋の前。青龍は「遅くなってすまなかった」と頭を下げ、彼の瞳を閉じた―――。
/
「うぅ……っぐ」
一度声を出したら止まらず、涙が治まらない。
「率直に言いましょう。止めません。私はあなたの中に出します」
「――あっぁっぁぁぁあ!!!」
身を守るため、カレンの体は無意識に拳を振り上げた。
「彼、生きています」
「!!!」
「ハハっ――どうです、“驚きました”?」
「……わ、私はイーグルを……彼を信じている――っ!」
強い瞳で七三の男を見返すカレン。
七三の男は「惜しい!」と、悔しさに笑った。
「中々朱雀さんは愛され上手なようですね。あなたは彼のどんなところにそれほど惹かれたんです?」
「さ――ぐっ!? やめてっ!!」
質問しながらも下着に手を入れ、直接指を入れた七三の男。
カレンはその手を押さえて必死に大事な部分から離す。
「やはり顔ですか? 彼、男の私から見ても稀に見る上物と言い切れますからね。私がデザイナーならモデルにスカウトしたいほどですよ。――あなたは大層な面食いですね、やはり“中身より外見”ですか」
「ち、違うわ! 私は彼の――キャァァァ!!」
身を起こして、立たせたそれを見せる七三の男。
「あぁ……ぁ……もう、もうやめてください。おねがい……」
「うーむ、本当に彼の面以外に惹かれたんですね。それほど良い性格には思えませんでしたが――まぁ、死人の事を語っても今更ですか」
「――ぇ?」
「どうしました、信じているのでしょう、彼のこと。ならば心配は要らないでしょう? 今にきっと、殴りこんできますよ」
「……」
「不安なんですか? カレンさん、あなた、“彼の死を少しは信じている”のでは?」
「――!?」
「どうなんです、“もしかして死んだのかも”とか思っていませんか?」
「そ…………」
「どうなんですぅ?」
「!! ぃや、やぁぁあぁぁああっ!!!」
晒された秘部の寸前。そこで止め、言葉も止める。
カレンは目を背けたいと思いながらも、あまりにも恐ろしいその棒と穴の距離を確かめ、そして、目を留めた。
「彼は死にました」
「ぅう……ヒっ――」
「ああ、今、あなた。またちょっとだけ、“彼は死んだのかも”と思いましたね?」
「ひ、ひ……」
「“挿れて欲しい”んですか?」
「あ――あぐぅっ!!」
「ほら、喘ぐのはまだ早い。お話しましょう――どうです、“私の髪型、カッコイイ”でしょう?」
「……!?」
「私、我慢できません。挿入しますよ、精子たっぷり出します。受精させましょう」
「うぅ、あぁ――……」
「――“嫌です”か? それならどうです、“私の髪型、カッコイイ”と思いませんか?」
「や、やめ……」
「“私の髪型、カッコイイ”でしょう!?」
棒を太ももにこすり付けて、息を荒げて見せる七三。
「!!?……や! ああっ、うぅ――。か、“カッコい―――/
! けたたましく開かれる扉 !
/―――っ!!!?」
怯えて言葉をやめ、再び泣き始めるカレン。
「キサマ、何を――っ!?……」
七三の男の姿を確認して、通話で聞いたあいつの忠告を思い出す。
口を噤み、睨む青い侍。
「早かったですね……」
七三の男はチャックを上げて、ベルトを直しながらベッドから降りた。
「始めに言っておきます。私は、“嘘つきが嫌い”でね。あなたは“嘘つき”ですか?」
さっさと終わらせようと、質疑を開始する七三の男。
青龍は何か言おうとした口を慌てて閉じ、周囲を見渡した。
ふと、備え付けの電話の横にメモ用紙を発見。
「?」
メモ用紙を手にし、袖からマジックペンを取り出した日本人の理由を考える七三の男。
青龍は、メモの1枚にさらさらと字を書いていく。
“お前の前で言葉を発するなと言われている”
―――突きつけるように見せたメモ用紙に、一文。
七三の男はしばし呆気に取られた後、思わず軽く吹き出した。
「おほっ。な・る・ほ・ど! 情けなく、悔しくも――盲点! これは面白いな。実に興味深い、うむ――どうなんだろう、コレ。通用するのか?」
顎に手を当てて、楽しげに悩む。
“一言、言いたかった”
次の1枚に書き込む青龍。
「ほうほう、そうですか。ところであなた、恋人っていますか?」
“悪いが、言いたいだけだ”
返事の3枚目を急いで書き、次を書き始める。
「いえいえ、少し話すくらいいいじゃないですか。冷たいことはおっしゃらず――そうだ、お仲間の話でも――」
“あいつから伝言だ”
「――ん。彼が、ですか……?」
“俺も人を使わせてもらった。いずれ、挨拶には行くよ”
「・・・・・・・・・ふ!」
“それと、もう1つ”
「?」
“君の髪型、トテモカッコイイネ”
「!!!!!」
口を押さえて、全身を震わせる七三の男。
理解された全て。それが、至極甘美・極地に充足を!!
もうだめだ……こんなの、こんなの堪えられないっ。腹筋が限、界・・・――
「アアっ・・・・・・っは!―――ッぷッククク……ブーッ!―――くぁっ――…!…!」
まともな声にならない。それほどまでに笑う。
爆笑して、腹が弾け飛びそうだ。
腹を抱えて必死に笑いを堪えようと努力するが、どうにも治まる気がしない。
「ひぃっひ……ブっ! き、君、さ。大切なモノって、ある……ぶぁッっハ!!! ははっは・・・!!! ひぃひっ、ダメ、ダメだ……くくっは――ぷっ! ……無理っ!!」
爆笑して、悶えるその姿をただ眺めるしかないカレン。
楽しげな、幸せそうなその姿は、見ている彼女に理解しがたい恐怖を与えている。
ペンを袖に戻し、メモ用紙を電話の横に戻して。何か言いたいけど言えない七三の男に近づく青い侍。
「……」
「! ――っふ、あんたさ…………クふっ♪」
その笑いの直後。
瞬間的に、強い一撃が首に落ちる。
振りの少ない一撃だが、それは瞬時に七三の意識を刈り取った―――。
/
笑みを浮かべながら、白目を剥いて椅子に倒れ込んだ七三の男。
青龍はその姿を訝しげに見下ろして、振り向いた。
――目が合う2人。
目と目が合う瞬間、通じる想いもある。
・・・だが、この2人は特に何も通じなかったようだ。
しばらく見つめ合った後、カレンは泣き始めた。青龍もまた、彼女の今の状態に気がつき、顔を伏せ、袖で両目を隠した。
「す、すまないっ、、、気がつかなかったんだ!」
謝るが、どうにも泣き止む気配がない。
それはそうだ。何も恥ずかしいからというだけで泣いているわけではない。
「ワ、解った! 出る、出て行くますから、すまないっ!!」
とにかく困ったら謝るのが彼の性質らしい。
目を瞑ったまま椅子に突っ伏している男を抱きかかえ、部屋を勘任せに出て行こうとする。
「キャァァァァっ!!!」
「あぅぁ、ごっ、ごめん!! 今、出て行くから!」
焦り、危うくベッドに突っ込みそうになった青い侍は、悲鳴に跳ね返されるようにそこを離れ、どうにか出口を目指す。
壁に引っかかり、扉にぶつかるたびに彼の肋骨は軋み、目には涙が滲んだ―――――。
$四聖獣$
Act END
妻は夫の帰りを待っていた。
昨日の朝、何も言わず家を出た夫。自分を見向きもしなかった。
夕食は勝手に作ってはいけない。無論、朝食もなので、彼女は昼までのあと2時間ほどの空腹を耐えなければならない。万が一、この時間に食事をしている姿を見られたら……一体、どんな目にあうことか。
案の定、チャイムが鳴った。
しかし、夫は鍵を持っている。チャイムをいちいち鳴らしたりせず、いつもは鍵を開けて入るというのに。今日はどうしたというのであろうか。
車輪を回して、玄関まで向かう。
いつも、鍵を開けるだけで一苦労。でも、それにも慣れた。
扉を開けた先には、見知らぬ男性が2人、立っていた。
彼らは制服から手帳を取り出して、身分を証明する。
一体、何の用なのかと妻は尋ねた。
男性の片方が「落ち着いて聞いてください」と発する。
何のことか。落ち着いて聞かなければならないことなのか。
内容は、昨日の事。
どこにいったのかと思っていた夫はレオディルにいたらしい。
そして、崩れる瓦礫に潰され――「お悔やみ申し上げます」と、男性は言葉の最後を締めた。
男性は家の前につけてある国の車を指差し、それで送ると申し出た。「身元の確認をしてほしい」、と言葉を付けて。
彼だと断言できないほどの状態なので、一応“確認”をしてほしいらしい。
状態が状態ですので、遺体鑑定で済ませることもできますが……と言う男性の言葉の後、妻は「送ってください」と答えた。
連れ添われ、車へと向かう。
空は晴れていて、昨日ニュースで観た惨劇が嘘なのではないかと、妻は想う―――――
Block4−NE
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車の中で。その妻は終始黙っていたのだが。
たった一言。警官は彼女の呟きを一言だけ聞いた、らしい―――――。
Block4−EN