前章、辰の節

 

 大海の空は夕暮れ。

 地平の先を見据えて先祖の過去を望むも、茶色の若き瞳は大人しい。

 

 恭賀達沖(きょうが たつおき)は時代遅れの手漕ぎ船の上で揺られていた。網ではまだ息のある魚共がのたうっている。

 帰れば母が待っている。妹も腹をすかせていることであろう。

「早く帰らないと」

 我に返った達沖は家族の待つ島を見据え、いそいそと船を漕ぎ出した。

 

 

 沿岸からの視線を防ぐように林立する松林を抜けると、見慣れた村がある。

 歩いていると、彼を見かけた村衆が頭を下げた。

「恭賀様、ご苦労様です。今日は大量でございますね」

「それほどでもない」

 達沖は謙虚に答えて、家路を急ぐ。新鮮な魚の鮮度を落とさず、美味い刺身を食いたいので急いだ。

 道中に誰彼が声をかけても軽く答えていた達沖だが、一つだけ足を止めざるを得ない相手がいる。

「達沖様!」

 彼の姿を見て嬉しそうに駆け寄ってくる娘。息を切らして額の汗を拭う娘の手を取り、達沖は愛おしそうに笑顔を返す。

 娘はハッとして己の手を見た。

「いけません、達沖様。手に泥が付いてしまわれますよ」

 先ほどまで畑を弄っていたのだろう。まだ渇いていない泥が娘の手に付いている。だが、達沖にとってそれは些細な事ですらない。

 泥のついた手にそっと口付けをして、娘の頭を撫でた。

「泥がどうした。懸命に働いた者の勲章を拒む訳がどこにある」

 達沖の気遣いに農家の娘は感涙し、そして彼の胸にそっと額を寄せた。達沖は愛おしい彼女の狭い肩を抱き、そしてその体温をしっかりと受け止めている。

 

 

 村から格式の線を引くように巡らされた林の道を越えると、平屋の大屋敷が姿を現す。

 門前に眠る野良犬。これは達沖が贔屓にしている成犬で、特に名は無い。適当に「犬助」や「犬コロ」などと周囲の者は呼ぶ。

 主人の帰宅に無反応な欠伸で迎える犬助。朱の門を開けば召使の者が丁寧に達沖を出迎えた。

 代々受け継がれる召使の衆に本日の収穫を渡すと、それらは代々受け継がれる料理人が至高の技で調理する。

 一仕事を終えて落ち着く達沖。自室で着替えを済ますと、襖が突然に開いた。

「達兄さま、おかえりなさいませっ」

 着物の余りを引きずりながら元気に駆けて来る小娘。案の定畳みの繋ぎに足を引っ掛けて倒れたが、懲りずに起き上がってきて飛びついた。

「たまには加奈も祠に行きたいのですよっ!」

「こらこら、落ち着け落ち着け。今日は漁に出たのだよ。祠には参っておらん」

 落ち着きの無い妹をなだめながらも、達沖は実に嬉しそうである。

 

 

 豪勢な夕食に舌鼓を打つ。家族3人での食事は和やかな空気にある。

「達沖さん、またそんなに日に焼けて。少しは労働を控えなさいな」

 初夏の陽射しに焼けた達沖の肌を見て、母が眉を顰めた。

「母上、他の者が働いている折に、ぼうっと呆けたくはないのです」

「達沖さん、上の者が下の者に合わせる必要などありませんよ」

 母の定型句に、今度は達沖が眉を顰める。

「達兄さまの捕った魚、おいしい!」

「――――加奈(かな)が喜んでくれるのなら、頑張った甲斐があるというものだ」

 妹の言葉を受け、達沖は得意げに母を見返した。

「我々が“頑張る”ことがあってはならないのですよ」

 それでも相変わらず古臭いことを呟く母を立て、一応は「はい」と答える。ただし、達沖の内心は思った以上に反抗していた。

 

 

 空を見上げると、そこには透き通った星の光がある。

 蚊殺しの線香から立ち上る煙は仰ぐ扇子の風に靡いて、消えてゆく。

 

 そろそろ夜も深まってきたので、達沖は胡坐を崩して立ち上がり、整った布団に入った。

 家族の夕食を思い出し、いずれはそれが4人になれば良いな、と彼女の笑顔を思い出す。

 格式などどうでも良い。ただ、好きな人と幸せになれればそれで良い。彼女を思い起こし、想像するだけで体が火照り、半身は滾る。

 今日も言葉を交わせてよかったと思うと安心し、やがて収めるといつの間にか達沖は眠りに就いた。

 

 

 悔しきことよ。 裏人憎きことよ。 怨恨を忘れぬことよ。 犠牲を、省みぬことよ。

 

 

 生憎の雨が屋根を叩く。濡れて困った雀が窓辺に留まり、羽を繕っている。

 傍の達沖はつまらなそうに、忙しない雀を見ていた。

 ふと窓から見下ろすと、雨の中、ポツリと咲いた紫陽花模様の傘。その隣でニヤニヤと笑みを浮かべている青年の手招きを見るや否や、達沖は嬉しげに立ち上がってそそくさと部屋を駆け出た。枕元の小刀に疑問は無い。

 

 

 傘をさして駆けようとする達沖を老獪な召使が止めたが、

「心配は不要。ただ、母には秘密にな」

 と舞い上がった様子でそれを振り切った。

 さて、館を飛び出すと青年と娘が彼を出迎える。

「はやく気づけよ、達ちゃん」

 そう言って達沖の肩を小突く大柄の青年。すっかり日に焼けた顔から白く堅実な歯が垣間見える。

「達沖様、お急ぎにならなくてもよろしいのに」

 笑顔の娘は紫陽花模様の傘をくるくると回した。

「母上に見つかると五月蝿いからな。しかし、今日は雨ぞ。何をする?」

「ばっかヤロ。雨だからって暇はさせないぜ。何するかはそのうち思いつくっしょ」

 大柄の青年は達沖の肩に手を回すと、それを引きずるように歩き始めた。乱雑に歩くので大して自前の傘が意味を成さないが、どれだけ雨に濡れようとも達沖は楽しくて仕方がない。

 意気揚々と雨中の林道を歩く2人を、紫陽花模様の傘が懸命に追いかけていく。

 人と人の等しく、温かい交流。達沖の価値観を古い母の固定観念から解き放ってくれた感謝は、紛れもなくこの兄妹にある。

 

 

 夕暮れも、曇った空ではつまらない。つまらない空も、達沖の気分まで暗くはできない。

 随分と雨に濡れた姿で門をくぐったので、召使達は大慌てで彼を浴場へと先導し、大急ぎで着替えの用意をした。

 珈琲牛乳を片手にいい調子で部屋に向かうと、それを見かけた妹が駆け寄ってくる。今日は達沖も落ち着きなく妹に対応する。

 屋敷内を駆け回る2人の姿に召使も思わず微笑み、屋敷中が楽しげに華やいだ。

「達沖さん」

 疲れて汗を拭っている達沖に声がかかる。同時に、華やいだ空気は冬季を迎えた林のように静まった。

「おお、母上。何用ですかな」

「今日は屋敷にいなかったようですね」

 元気に答えた達沖も、母の返答を聞いて気まずくなった。

「濡れて帰ってきたそうですね。衣類も汚れがあったとか」

 母は変わらぬ調子で続ける。達沖はすっかり押し黙った。

「達沖さん。我が“恭賀”の家紋に汚れがあってはなりませぬよ。衣類の汚れは洗えば落ちますが、名誉の汚れは洗えませんからね」

 微動だにせず、同じ調子でよく聞かされた言葉を放つ母。達沖もまた、微動だにせず、黙ったままその場に在る。

「達沖さん、よろしいですか」

「はい、母上」

 達沖は丁寧に答えてから歩き出した。

 しかし、すぐに立ち止まり

「母上、夕飯はいりません」

 と言い放つ。

 だが、

「達沖さん、母は不摂生を好みませんよ」

 すぐさまに返され、思わず息を呑み

「……汗をかきました。着替えるので、少し遅れます、母上」

 と答えてから部屋へと向かった。

 

 

 雨は止み、空には透き通った星の光が点在している。

 今宵の夕食において、彼の母は無言であった。ただ、時折箸を止めては彼の一挙一動を検閲するように眺めていた。

 孤島に封ぜられた(逃亡した)とは言え、その本来の格式は本土のあらゆる公家に勝る“恭賀”。どれほど落ちぶれても、その格式は保たねばならない。だからこそ、隠れ潜むように住みながらも本土から妥当以上の嫁を呼び寄せている。“恭賀”の血を継続するために全てを注ぎ、高められた者でなくてはその格式は守られない。

 達沖は百も承知。しかし、それでも納得はしない。

 顔も知らぬ人形のような公家娘と、幼き頃より親交のある、自分を良く知り、その上で好いてくれている農家の娘。500年も前の栄光の為に、なぜこの愛を犠牲にしなければならないのであろうか。人形として娘を送り出す行為に人として“格が高い”要素があるのであろうか。

 考えるほどに頭が痛くなる。達沖は胡坐を崩し、立ち上がって隠れるように布団に潜った。

 やがて意識が静まり、夢の世界が近づいてくると回る紫陽花模様の傘が見えてくる。

 振り返った娘の肌は日に焼けている。

 拙くも精一杯整えたその髪に手を当てると娘は微笑み、そしてその身を預けてくれる。

 自分を信頼して、そして想ってくれる。

 できることならば、“守りたい”――――

 

 

 

 悔しきことよ  裏人憎きことよ  怨恨を忘れぬことよ  犠牲を、省みぬことよ

 

 

 

 大海の空は暁。

 寝ぼけ眼を擦る彼の、若い茶色の瞳は大人しい。

 

 その日、達沖は早くに目が覚めた。朱の日光が差し込む窓を眺め、大きな欠伸をかく。

 窓枠に留まり、羽を繕っていた雀は飛び上がり、どこぞへと離れてゆく。

 燃え尽きた蚊殺しの線香は器の中で崩れている。

 

 静かにだが、突然に、襖が開かれた。

「あら、達沖さん。起きてらしたの」

 顔を覗かせた母は照れくさそうに微笑んだ。

 達沖は瞬間に渋い顔をしながらも、すぐに微笑んだ。

「おはよう御座います、母上。どうなさったんですか」

「ええ、今朝は早くに目が覚めてね。ふと達沖さんの寝顔を眺めたくなって」

 母は少し残念そうに首を傾げた。

 今度は達沖が照れくさい。

「もう子供ではないのだから」

 と、照れ隠しに頭をかいた。枕元の小刀は気にならない。

「それじゃぁ、母はもう一眠りするわね」

 そう言って襖を閉める母…………

 

                ――――――枕元の小刀が気になった。

 

 勢い果敢に開かれる扉。

「達沖さん……、それは――?」

 指差された小刀を見て、達沖は不思議そうに首を傾げた。

「? “それ”は私の小刀ですが?」

 さも当然のことを言われて困惑する達沖。

「なぜ、そんなものを……?」

 理解の敵わない事を言われて困惑する母。

「さて、何故でしたか。一昨日あたりに誰かから貰ったはず……母上ではなかったか?」

「私はそのようなもの、与えてはおりません」

 相違する意見に、互いの混乱は収まらない。

 困惑の中、母はそれを指差して眼を見開く。

「貰った物とな!?さてはあの“下民”から献上されたのですね? 卑しいっ、浅ましいッ! そうまで媚びて我が家系を貶めたいかっ、成り上がりたいかッ!!?」

 母の言葉でその誤解を理解し、尚且つ言い草が達沖の胸中を突き刺す。

「母上、それ以上の侮辱はいけません」

「…………侮辱ゥ?? ブジョクはこれでわないカッ!!!」

 母は容赦なく部屋に上がり、そして小刀を取る。

「母上っ、お待ち下さい!」

 立ち上がって母を引きとめる達沖。縋る息子を静かに睨み付け、母は静かに言い放った。

「達沖さん。手を、お放しなさい」

「う……」

 達沖は言うとおりに手を下ろし、黙り込んだ。

「達沖さん。どのような経緯と思惑があるか解かりませんが、このような物騒な物を渡す民とは縁を切りなさい」

 母は俯く息子をなだめるように穏やかな調子で諭す。

「母上、それは美佐子さんから頂いたものでは……」

「達沖さん。それ以前のことですよ。解かりますね」

「…………」

「やはり、あなたは賢い子。これで母は安心してもう一眠りできますわ」

 微笑み、背を向ける母。

 

 

大海の空は、を越えて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    悔しきことよ       裏人憎きことよ     怨恨を忘れぬことよ

 

 

犠牲を、省みぬことよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 犠牲を、省みぬことよ、、、、、、

 

 

 

 気がつけば、あっという間の出来事であった。

 

 右手で小刀を奪ったのも一瞬であり、

 左手で母の首を押さえて声を殺したのも一瞬であり、

 右手の小刀で母の首を裂いたのも一瞬である。

 

 今、母は四肢をバタつかせている。噴き出す血液に濡れる、眼に映る全て。

 達沖は両手で小刀の柄を掴み、足元で血の泡を噴く母の胸元に全体重を乗せて突き刺した。

 目を見開いた後、母はそのままの表情で動かなくなった。

犠牲が、1人・・・

 達沖はぶつぶつと薄気味悪く呟くと、開かれた襖の先を睨み付けた。

 立ち尽くす召使の女が、掃除用のバケツを落とす。

犠牲は、厭わない・・・・・・

 

 

 

 空は落ち着き始め、普段の薄青に染まりつつある。

 門前の犬助はけたたましく吠え立てていた。目の前を通り過ぎる主人に向かって。

 達沖はけたたましい犬を無視して、

できない、できない

 と繰り返し呟いた。

 

 村の朝は比較的緩く、この時間帯に起きだすのは一部の老人くらいのもの。

 その一部の老人がいつものように今朝の畑の様子を探っていると、その人の姿が見えた。

 見えたには見えたが、どうにも様子がおかしい。

「恭賀様、どうなさったので。着物にも、顔にも何か赤い――アレ……血??」

 老人の疑問はすぐに解決した。間近になることでその臭いからも、そして噴き出す自分の血液からも達沖が血まみれであることが理解できた。

 一心不乱の、いつも行われる日常のように。彼は村の住人の首や胸などを突き刺し、的確にきちんと殺人をしていく。

 一刻も経たない内に村の一部が騒ぎになった。

 しかし、孤島とはいえそれなりに広く、尚且つ住人が疎らに点在しているので異常事態の伝達は飛び飛びに、時に途絶えながら伝わった。何より本来異常を伝える恭賀本家が壊滅していることと、達沖のまるで全てを見通すかのような順調な作業が伝達を遅らせた原因である。

 直前に気がつき、隠れても無駄なことであった。迷い無く、達沖は村人を見つけ、そして一刺しの元に犠牲にしていく。

 大方8つに分類される集落の内4つが壊滅した時点で事前に事態に気が付き、そして逃亡するのではなく、それを阻止しようとする人が現れた―――

 

「達ちゃんっ!」

 

―――そんなはずはない、そう信じたがそれは裏切られた。

 目の前に立つ達沖は見違えようが無く、そして血塗れであることも確かで、その手にある小刀からは血が滴っていた。

「どうしたってんだ、こんなの嘘だろっ!?」

 錯乱しそうな思考を必死に抑えて、大柄な青年は一歩後ずさった。呼びかけにも、まったく無反応に歩を進める達沖を相手にしては仕方が無い。

「俺だよ、浩二だよっ! 達ちゃん!!」

 何もかもが嘘であってほしいところだが、無言のまま、達沖は小刀を突き出した姿勢で突き進んでくる。

 大柄な青年は必死に今を理解して、脇の畑に刺さっている古い鍬を手にした。

「やめろ、来るな!」

 どうにも止まらない。達沖は止まらない。

や、やめろっっっ!!!!!

 鍬を振り上げて、それを振り下ろさんとする時。

 大柄な青年の全身に鋭い痛みが走り、そして強烈な痙攣と麻痺が彼を襲った。

「あっ、あがぁぁぁぁ……」

 朦朧とした意識で鍬を手放し、ふらふらと膝をつく大柄な青年。

 歪む視界の中に弾ける赤が映り、視界が赤で埋まった後、彼の意識は永遠に途絶えた。

 青年の額から小刀を抜き、再び微塵の乱れも無く歩き始める血染めの着物。視線を右66度に逸らす。

 木陰で受け止めきれない現実に涙を流す娘は、それでも必死に駆け出した。

 

 

 

 やがてそれは見慣れた家屋に辿り着く――――

 

 

 狭くて暗い場所で震える。

 息も沈め、下唇を噛んで身を丸める。

 声を出さぬように、泣き声を上げないように。

                             「ありえない」

 しかし、それでも涙が堪えられない。

                             「ありえない」

 兄は死んだ。好きな人は兄を刺した。

 好きな人は今、人を殺している。

 自分は今、好きな人に殺されるかもしれない。

 昨日までは何事もなかった。

 昨夜、兄と楽しく話しながら食事をして、お風呂に入って、

 彼のことを想いながら眠るまで、いつもと何も変わらなかった。

                             「ありえない」

 起こされたら兄が血相を変えて「そんなはずはない」「馬鹿な話だ」と、

 伝えに来たおじさんを怒鳴りつけながら家を飛び出した。

                             「ありえない」

 何も間違ってなかったのに、昨日までは幸せだったのに。

 こんなことはない、だって昨日までは幸せだったもの。

 紫陽花の傘、似合っているねと言ってくれたも――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

犠牲は、厭わない・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・雲海の上は快晴。

 

 

 先の地に広がる変わり果てた世界を見据えて過去を望み、赤の格式高い瞳は滾っている。

 胡坐を組む赤い着物姿の懐には、小刀が一振り。

 彼を囲む4戸は皆、狐の仮面をつけている。

 

 

 500年を跨いで増幅した怒りを携えて、彼はついにこの時を迎えた――――――

 

                                      

Å                                      Å

    辰

     羅

   神

  信

    仰

 

 

        ―  タ ツ ラ ガ ミ シ ン コ ウ ―          

 

戦国の時代。そこには神に等しい存在と成った者がいた

 

 しかし、乱世は神域にも影響したのか、“神”は没落してゆく。

 悲嘆に塗れた死の間際、それでも“神”は諦めず、4人の忠臣と協力し、そして“復讐のプロセス”を組み上げた。

 

     『 悔しきことよ。 裏人憎きことよ。 怨恨を、忘れぬことよ、、、 

 

                                      

Å                                      Å

 

 

 東京都、某所。

 

 

 真夏の陽射しがビルの窓に反射する。さながら昼の星空とでも例えようか。

 高層ビル群に紛れるように佇むボロ屋。買い換えたクーラーが勢いよく唸っている。

「いろいろと、ゴメンね。あと、麦茶もまだ冷えてなくって」

 そう言って気まずそうにT.Tレモンをコップに注ぐ金髪の女性。

「いえいえ、どれも些細なことです。御気になさらずに」

 丁寧な物腰の女性は所作も正しく気遣いに答えた。

 コップではレモン色の炭酸飲料がシュワシュワと音をたてている。

 

 

 彼女の背後では、半裸の青年が扇風機の努力を一心に受けている。黒髪の短髪が風に靡くが、剛毛なので今一滑らかではない。

 

 家屋の二階では、青い髪の青年が並べたトランプを恐ろしい形相で睨み付けている。暑さで滴る汗も気にせず、ただ、必死。

 

 

「どうぞ、飲んじゃってください。それから――」

「あの……すみません」

 金髪の女性の言葉を遮る丁寧な女性。

「この飲み物は、なぜこう……“しゅわしゅわ”と音を立てているのでしょうか?」

 

 

「・・・・・・へ?

 

 

 

 

 

 この物語、 四聖獣

 

 続く